「拝啓、はじめてメールをいたします。お手紙とかお電話でと思いましたが、このコーナーのほうが直接的で良いかもしれないと思って書かせてもらいます。
 私は**県**高等学校の****といいます。本校は今年からSSH校に指定されました。今、講演会の講師を求めています。突然ですが、先生にお願いできないかと思ってメールをいたしました。
 日本の若者に21世紀を豊かに学びながら生きてほしい。そう思っています。受験勉強の知識を詰め込まれて、その重みに押しつぶされて生きている高校生に本当の自然を見つめたら自分らしく生きられることを学んでほしい。そう思っています。
 今アシナガバチの生き方を見ています。でも今年はなんだかおかしい。彼らは軒下に水平に巣を作るものと思っていました。ところが今年は壁に垂直に作っています。ひょっとすると今年もなんだかおかしいだけかもしれません。ただ私が常識に捕らわれていただけのことかもしれません。でも、なんだかおかしいという気持ちは科学を発展させる直感のようなものになりうるかもしれません。ところで、巣を出ていったハチはきっと多分間違いなく巣に戻ってくることでしょう。いつでも、道に迷う方向音痴の私としてはハチのすばらしい力に感激しています。しかし本当でしょうか。迷うことはないのでしょうか。今年はちょっと調べてみました。とんでも無く不思議なことがおこります。
フタモンアシナガバチの巣を木箱の中にゲットしました。ついでにマイハチにするために背中にペンキで蛍光マークをつけました。どうやってという方法はどうでもいいと思います。きっと夜には全員のハチコロニーのメンバーは帰宅しているものと思います。この巣を木箱ごと夜の間に移動してしまいます。次の日ハチはどうするのでしょうか。朝巣を飛び立つハチは自分の巣の位置を確認して(太陽が基準?)でかけます。きっと新しい場所に帰ってくると思います。けれども、違うんです。やってみました。2カ所に帰ってきます。昨日の場所に帰ってきたハチは大変です。巣がありません。大騒動で探し回ります。さてこの時近くに別の巣があるときっとこれだろうと思って入り込みます。そうすると巣の中は大騒動になります。だって、隣の旦那(嫁かな)が飛び込んできたんですから。そうすると今度はハチのコロニーは自分のメンバー(家族)を知っていることになります。よそ者が侵入すると激しい戦いがおきます。ところが不思議なことにいつの間にか、隣の家に引っ越してちゃっかり働いている個体がいます。どうなっているんだこれは。こんなことを観察しました。きっとヒントがあります。長い棒で巣を揺すってみてください。びっくりしてハチは攻撃に出てきます。でも、決して全員ではありません。もっと、揺すってみてください。第2陣が出てきます。でもまだ全員ではありません。・・最後まで巣から出てこないハチが3匹ぐらいいます。きっとこれが鍵だと思います。全員同じに見えるハチが実は違うのかもしれません。行動的にいくつかのグループがあるかもしれません。多くの生き方を遺伝子に任せてしまった生き物は自然の変化に対応するために、この場合は怒り行動の発現に幅を持たせているということがあり得るのかもしれません。
 人間の常識で自然を見てはいけません。若い人たちにほんとかなとか、あれ?とか思ってほしい。そうしたら確かめてみて、自分で考えてほしい。そういう生き方ができたら受験方法だけの生き方よりはるかに豊かに生きられるのではないでしょうか。ついでにハチの遺伝子は帰巣行動にどこまで関与しているのでしょうか。・・・
若い人たちに21世紀の自分の生き方を探ってほしいと思って、SSHの事業を私は進めています。(学校は違うかもしれません)是非先生のお力をお借りできないでしょうか。生き生きと自分の生き方に誇りを持てる若者。夢を持って未来にチャレンジする勇気を持った 若者になってほしい。クラーク博士のように ”Be gentleman” ”Boys be ambitious.”とだけ言えばいい。勉強しなさいとしか言えない学校では何も生まれません。大学入試にはここが出ますとしか言えない学校には未来はありません。
長くなってしまいましたが、是非、先生のお力をお借りできないでしょうか。」
 ある館長に講師の依頼をしました。とても有名な先生でした。他の先生方から希望がありました。話したことも会ったことも何の関係もない先生でした。間もなく学校へ電話がありました。館長付きの秘書がいるはずですが、直接館長からでした。「お断りするときは自分で連絡することにしています。」すごい先生だと思いました。昔ある近くの研究施設の教授に講演依頼をした時全く話も聞いてもらえませんでした。確かに世界的に著名な教授でしたが、門前払いって言うやつだった。館長は丁寧に断りの電話をしてくださいました。「SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の講演にはいかないことにしています。」やはり門前払いのような回答でした。仕方がないって思いました。この時は黙って引き下がりました。職員室へ戻って落ち着いたら、やはり納得が出来なかった。再びメールを送りました。「先生、それはおかしいと思います。私は若いこれからの人たちに生き方とか学び方とかを教えたいと思っています。」「私には力がないから先生の力をお借りしたいと思って依頼しました。けれども、初めからやらないことにしています。」「それはおかしくありませんか。」
 間もなく館長から連絡があった。「ごめんなさい。すみませんでした。」「今年はスケジュールが詰まっています。来年ふたたび依頼があれば考えてみます」再びすごい先生だと思いました。

その後、私は校長と喧嘩をして学校を出ました。翌年、もう一度依頼するからって引き継いだ先生から連絡があった。館長によろしくお願いしたが、私は講演は聞けなかった。
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