トップ 面白い実験でたしかめる生物の不思議

 物質を分離、分けることは次のステップを考えるためには重要な事だ。薄層クロマト、とかペーパークロマトとかカラムクロマトとか様々な方法がある。上はセルロースパウダーをヘキサンに入れて5ml注射器に充填して、展開溶媒の極性を少しずつ上げて光合成色素を分離した。随分長い間やってきたが満足が出来るものにならないまま終わった。結果はイマイチだけれども、クロマトグラフィーの原理を理解するには最適だと思う。
 学生時代の昔のことだ。実験室で実験をしていると他の研究所の助手の先生がやってきた。私にだけ実験を見せるから、よく見ておけって言われた。カラムを充填した。黄化葉の色素だったのかほうれんそうの色素だったのか覚えていない。が、しかし、見事に分離した。展開溶媒を変えた実験も含めて、全部データをくれた。格好だけ彼と同じようにやったが、あれほど見事には出来なかった。今でもできない。
 彼はもう良いって言った。実験のデータを他の研究者に取られたと言った。本当なのかどうかは知らないが、有名な先生の名前が上がった。あの頃はまだ、皆若かった。私に何をしろと言いたかったのか分からないが。
 間もなく彼は自ら命を断った。彼は私に何かを期待してくれたのだと思うが、私には力がなかった。何度やっても彼のような色素のバンドが出来なかった。極性を上げるときにひょっとしたら、真実と違う結果が出るかもしれないと思いながら、彼には申し訳ないが、何も出来なかった。
 

面白い実験でたしかめる生物の不思議 

今日の一枚 第57回  光合成色素を注射器カラムクロマトグラフィーで分離