スズメバチは巣を新築した。きっと随分長い時間を費やして丁寧に作ってきたのだろうと思う。けれども知らなかった。こんなところに作っていたとは。ちょっと前このあたりで蜘蛛の巣を生徒と一緒に探した場所だ。呼吸の実験をするつもりで授業にのぞんだ。けれども、ちょっと蜘蛛の話をした。そうしたらやってみたいと言い出した。せっかく準備したのにとは思ったけれど、やりたいと思った時がやり時だ。早速、銘銘にアクリル板やホールスライドグラスと捕虫網などを用意した。ゴミグモというちょっと変わった随分小さなやつだ。実験に使うには不満だったけれど、仕方がなかった。糸の作りを観察するだけならば、小さいけれど結構使える。でも、スズメバチの危険と隣り合わせにいたことには全く気づかなかった。
 早速、ロープが張られて通行止めになった。けれども秋の終わりはそれでも危険かもしれない。誰かが蜂の巣を取れば良い。けれども、だれも取るものはいなかった。昨年もひとつ叩き落したが、完璧に安全だったかどうか不安があった。近くで見ていた人がハチが飛んできたと言ったからだ。もっとも飛んでいるからといって危険でもないと私は思っています。攻撃行動のスウィッチが入って飛行するハチは100パーセント危ない。刺されたら死ぬかもしれない。自分の近くに飛んでくるはずはなかった。100パーセント安全でなければならない。テレビで見るような完全防御服はない。
 ”ハチは夜は飛べない”夜は飛べないと私は信じています。見えないからではありません。上下が分からないからです。上下が分からないまま飛べば地面に墜落します。アシナガバチは夜は飛べません。夜巣から飛び出せば墜落して地面を歩くしかありません。でも、スズメバチは違うかもしれない。けれどもきっと同じです。巣の排除は夜やれば良い。
 アシナガバチの巣を2mほどの棒で突いてみてください。刺されます。2mの棒は充分長いように思います。けれどもこれは人間の感覚にすぎません。でもハチは無限の空間を防衛するはずはありません。もっと長くすればどこかでハチの防衛能力を超えるようになると思います。そんな馬鹿なことをと思う人がいるかもしれませんがそれほど大変な実験ではありません。あと1m、2m長くすれば完璧です。普通の物干し竿で突いてみてください。さおに沿って沢山のハチが攻撃に出てきます。びっくりします。慌てない慌てない。手元付近でハチは折り返して帰って行きます。
 スズメバチは一体どれ位の防衛能力があるのだろうか。アシナガバチよりはるかに飛行能力には優れています。棒は物干し竿しかない。これで100パーセント安全だと言えるのだろうか。よく分からないが夜、しかも物干し竿をもってやれば、ほぼ安全だと言えるだろう。・・・。今夜、決行と決めた。けれども私は下から光がきたらひっくり返って飛ぶだろうと思って、下から電灯をつけてビデオで撮影しようと思った。
 さあ、陽は落ちた。いよいよ決行。けれども巣の後ろに水銀灯が点いていた。これでは夜とはいってもハチは空を飛べるだろう。ちょっと不安だったが、大見栄を切ったてまえ、物干し竿を信頼して実行するしかなかった。はじめに殺虫剤ジェットを噴射しておけば少しは不安は解消されるかもしれないが、できればハチがひっくり返って飛ぶ姿を撮影してみたかった。陽は落ちた。すべてのハチが巣に戻ったことを確認した。いよいよ意を決して物干し竿でジャブ、ジャブ。ハチは怒って飛び出してきた。水銀灯に照らされた夜の空をハチは飛び交った。予想はしていたけれど、私は安全だろうか。絶えず緊張はしていたけれど私は全く安全だった。暗闇に隠れている私のほうには1匹も飛んでくることはなかった。
 しかし、全然予測しなかった事態が発生した。7,8mほど離れたところで美術の授業が行われていたのだ。実行する前に分かっていたけれど、ハチはほとんど飛べないはずだから、多分問題はないだろうと思っていた。ハチの巣を叩き落し始めて暫くしたら、美術室の先生、生徒が全員飛び出してきた。怒り狂って飛び出してきたものの、相手が見つからないで教室の光にさまようスズメバチが侵入してきたのだ。殺虫ジェットを猛烈に噴霧してやった。かわいそうなのはとばっちりを受けたムカデだ。彼を攻撃するつもりはなかったけれど、どこにいたのか、落下してきて死んだ。
 撮影は失敗した。スズメバチの防衛範囲は分からなかった。3段あったスズメバチの巣。白い蓋がしてあるものがある。この蓋は一体誰が作ったのだろうか。親それとも幼虫か。新たに疑問が湧いてきた。幼虫は一斉に小部屋の門に頭を擦り付ける。ザワザワと音がする。これが給餌のおねだりだろうと思う。実に見事な遺伝子の活動だ。十の何十乗に一回の偶然の技か、それとも神の仕業か。

でも、危険なのでやらないでください。100パーセント安全かどうか確証がありません。

 
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今日の一枚 第53回 運の悪いとばっちりを受けたムカデ スズメバチ退治

運の悪いとばっちりを受けたムカデ

防護服さえあれば一度スズメバチの防衛範囲を確かめたいが、ない。10mとか20mとか言われるが、そんなに広くないと思う。(この範囲が本当なら物干し竿では刺される)夜は飛べないと思うが、人間も見えない。下から光を照射すればアシナガバチと同じように下に落ちると思うが、分からない。こんなことを確かめれば、普通の巣なら安全に巣を取り除くことが出来るかもしれない。