一生懸命頑張っている人から笑顔を奪っちゃあいけない。これからも悩むかもしれないし、挫折することがあるかもしれない。けれども、この気持ちがあればきっと素晴らしい生き方が出来るだろうと思う。
 私を漫画にしてあげるって言ってくれた。でも、私はまだ私のままだ。昔のそんな言葉は気にすることはないが、私はちょっとは期待して待っている。
 学ぶことは大切だ。勉強は大切だ。けれども、心配することはない。100点とらないと何もできないというわけではない。
 勉強、勉強って、皆が叫ぶけれど、どれぐらい勉強すれば良いのだろうか。日本を経済大国とか技術立国だとか言われるような国に築き上げてきた老人はそんなに勉強をしてきたのだろうか。戦争の最中を生き抜いてきた人たちだ。そもそもしたくてもできない青春時代を過ごしてきたんだろうって思う。私は本当のところはよく知らないけれど。でも今の若者にはもっと沢山時間がある。慌てなくても良い。自分ができることを一生懸命やれば良いと思っている。昔、よく遊べって言われた。この言葉はどこへ消えちゃったんだろう。
 

終わりにありがとう目次
こんなところに書くと怒るかもしれない。とは思うが、怒らないでください。私から笑顔を奪うものは何だろうとある。

 窓側から2列目あたり、前から2つ目あたり、この人はこのあたりに座っていた。授業が始まるといつだって笑顔は消えた。真剣になるというわけじゃない。静かではあるが私の授業なんかまるで聞かない。きっと私は君の夢の中へ行くだろうと言っていたと思う。「こらあ。起きろってばあ。」「君の夢の中でそう叫びながら追いかけていくよ。」
  今日はちょっと得意な所だからきっと面白い授業になるだろうって思って、黒板の前に立つ。この人は右の前の方にいた。面白いはずなのに、期待に反して眠そうに机に伏せている。たまりかねて、「君はいつ桃太郎になるんだね」きっとそう言ったに違いない。「桃太郎は食っては寝、食っては寝とった。」ある日、突然、「鬼退治に行く。」と言い出した。「君はいつ桃太郎になるんだ。」
 けれども、不思議な人だ。昼休みとか放課後になると笑顔が戻ってきた。生物室にやってきて楽しそうに話して帰っていった。何を話したか記憶にないが、授業中に寝ていたことなどまるで気にしていない。
 卒業してしばらくしたら、会いに来てくれた。「先生、今なら頑張れるような気がする。」そう言ってやってきた。「何でも勉強やてえ。」自分で書いた漫画を持って東京へ売り込みに行っていると言った。大変な世界だ。無名の人間だ。こんな若者なんか相手にしてくれる人がいるだろうか。真剣って言うのは大切なんだろう。じゃあちょっと見てあげようって言う人がいる。世の中はまんざら捨てたものでもなさそうだ。それでも随分苦労をしたんだと思う。
 「評価するのは他人だから、自分は頑張るしかない。」そう言って来た。何でも学びたいし、今ならそれが出来る。そんなことを1時間ぐらい話したと思う。「でも、先生。私は一生懸命頑張っている人をちゃんと評価できる人間になりたい。」素敵な言葉だ確かな想いだと思った。これは桃太郎だと思った。きび団子は昔作ってあげたと私は思っている。
 
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